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山形地方裁判所 昭和37年(ワ)113号 判決 1963年2月27日

原告 坂野太吉

右輔佐人 坂野二三郎

被告 新関司

被告 新関純子

被告等訴訟代理人弁護士 鈴木右平

主文

本件訴を却下する。

訴訟費用中、控訴費用は被告等の、その余の費用は原告の負担とする。

事実

≪省略≫

理由

よつて先ず、本件訴の適否について判断するに、書面の真否確認の訴は、一般の確認訴訟と同様、確認の利益があることが必要であるから、その目的たる書面の真否確認によつて、直接に現在の権利又は法律上の地位について存在する危険又は不安を解消することが出来る場合に限つて許される訴であつて、その確認だけでは未だかような危険又は不安を解消することが出来ず、その解消には更に進んで当該権利又は法律関係自体の確認を求める必要のあるような場合には、寧ろ直接にそれ等の存否の確認を求むべく、独立して書面の真否確認を求めることは許されないと解するのを相当とする。

而して、原告の主張によれば、原告は、本件物件を被告新関純子に売却するにつき、売買による所有権移転登記手続に関する権限を被告新関司に授与した事実がないのに拘らず、そのような権限を授与したかの如き委任状が偽造若しくは変造されているので、右委任状の内偽造若しくは変造に係る部分が真正に成立したものでないことの確認を求めると言うのであるが、若し、原告が本件物件を真実被告新関純子に売却していないのであれば、原告は本件物件が現在尚自己の所有に属することの確認を求めた方が、原告の権利又は法律上の地位について存する危険又は不安を解消するにより直接的であり、又、原告が、被告新関純子に本件物件を譲渡した事実がないのに所有権移転登記が経由されたとか、或いは本件物件の所有権を移転したけれども移転登記手続に瑕疵が存在したと言うのであれば、本件物件に対する登記請求権の有無を確定した上、所有権移転登記の抹消を求めた方が、更に又、この点は弁論の全趣旨により本件訴の利益として原告の予想しないところと考えられるが、原告がもし被告新関司より、本件委任状が存在したがために、委任契約に基く費用償還請求権等を行使されることに不安があるのであれば、寧ろ債務不存在を求めた方が、前同様原告の法律上の不安を除去するためにより直接的である。換言すれば、原告が以上のような手続を執るときは、当然本件委任状も受訴裁判所によつてその真否が前提事項として判断され、本件委任状の真否不明確に帰因する紛争当事者間の権利関係の不安は一掃されて、争の最終的解決が図られることになるのである。之に反し、本訴に於て、本件委任状の真否を確定してみても、それは高々、原告が過去に於て本件物件の所有権移転登記申請につき、被告新関司に対し代理権を授与したか否かに関する有力な一証拠方法を提供するのみで、現在の原告の権利又は法律上の地位に存する危険又は不安の解消には、殆んど寄与するところがないと言わねばならない。

のみならず、原告は、被告新関純子との間の本件物件に関する所有権の帰属を以て本訴提起の利益と主張せず、却つて、本件原告を原告、訴外山形地方法務局長を被告とする別件、仙台高等裁判所昭和三七年(ネ)第三七六号事件につき、本件委任状の真否確認の利益が存すると主張するに至つては、尚更、本件訴の利益は認め難いことになる。即ち、訴外山形地方法務局長を相手方とする本件物件の所有権移転登記抹消請求のために、本件委任状の真否確認を求めることは極めて間接的な手段に過ぎないと考えられる上に、一般の確認訴訟に於ては、既判力の範囲は当該事件の原被告間に限られ、第三者に及ばないのが原則であり、書面の真否確認の訴も、確認の対象となるものが書面の真否という事実であること以外は、一般の確認訴訟と異らないと解されるので、本訴に於て本件委任状の真否を確定してみても、その結果は何等前記別件訴訟を拘束することにならないからである。その他、本件に現われた全資料を仔細に検討してみても、本訴に確認の利益を見出すことが出来ない次第である。

果して然らば、本件訴はその実体判断に入る迄もなく不適法なものであるから之を却下することとし、訴訟費用の負担につき民事訴訟法第九十六条、第八十九条、第九十三条を各適用した上、主文の通り判決する。

(裁判長裁判官 石垣光雄 裁判官 前田一昭 加藤一隆)

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